グミとチューイングガムの市場規模推移を徹底比較|なぜグミはガムを上回り、覇権を握ったのか?

生活
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  1. 1. はじめに:日本の菓子市場における歴史的パラダイムシフト
  2. 2. グミとチューイングガムの年間消費量・市場規模推移
    1. 2.1 国内市場における逆転劇の軌跡
    2. 2.2 ガムの輸出入推移から見る国際的な動向
    3. 2.3 世界市場におけるグミとガムの巨大なポテンシャル
  3. 3. なぜグミはガムの消費量を上回ったのか:歴史的逆転の背景
    1. 3.1 ガムにとって最大の競合は「スマートフォン」だった
    2. 3.2 コロナ禍による「喫食シーン」の喪失と価値のギャップ
    3. 3.3 「グミニケーション」がもたらしたSNS映えと共有の文化
    4. 3.4 チョコレートなど他カテゴリーからの大規模な需要流入
    5. 3.5 大人世代を虜にした「事後処理の不要さ」と咀嚼効果
  4. 4. 象徴的な歴史的転換点:明治「キシリッシュ」のグミへの転生
  5. 5. 最新のグミトレンドと覇権を握る人気商品たち
    1. 5.1 王道フルーツとハード系:スーパーの棚を制する定番たち
    2. 5.2 プレミアム化とギフト需要の開拓:「グミッツェル」の熱狂
    3. 5.3 健康志向と機能性への拡張:サプリメントとしてのグミ
  6. 6. チューイングガム市場の現在地と復活へのシナリオ
    1. 6.1 対面コミュニケーションの復活による「エチケット需要」の回帰
    2. 6.2 機能性の高度化・植物由来・持続可能性へのグローバルシフト
  7. 7. 結論:菓子市場における新たな共存関係と未来への展望

1. はじめに:日本の菓子市場における歴史的パラダイムシフト

長年にわたり、日本のオフィスワーカーや学生の間で「口寂しさを紛らわせる」「眠気を覚ます」「食後のエチケット」といった機能的ニーズを満たす代表的なお菓子といえば、間違いなくチューイングガムでした。ポケットやカバンの中に常備され、日常的なリフレッシュツールとして不動の地位を築いていたガムですが、近年の菓子市場においてその強固な前提は完全に覆されました。

1980年代に日本国内で販売が開始されて以来、長らく「子ども向けの甘いおやつ」という認識が強かったグミが、多様な食感とフレーバー、さらにはSNSを通じた強力なコミュニケーションツールとしての価値を獲得し、市場規模においてチューイングガムを抜き去るという劇的な逆転劇を演じたのです

本ブログ記事では、この菓子市場におけるパラダイムシフトの全貌を、最新の統計データや市場調査に基づいて詳細に分析します。グミとチューイングガムの年間消費量および市場規模の推移を比較し、なぜグミがガムを上回るに至ったのか、その根底にある消費者心理の変化やスマートフォンの普及によるライフスタイルの変容を深く掘り下げます。さらに、単なる嗜好品から高級ギフトや機能性サプリメントへと進化を遂げるグミの最新トレンドや、逆境から再起を図るガム市場の今後の展望についても、多角的な視点から包括的な洞察を提供いたします。

2. グミとチューイングガムの年間消費量・市場規模推移

2.1 国内市場における逆転劇の軌跡

日本のチューイングガム市場は、2004年に生産量が4万6,100トン、販売額が1,881億円という歴史的なピークを記録し、まさに絶頂期を謳歌していました 。当時の日本国内は労働人口の増加期にあたり、オフィス内での所持率が極めて高いアイテムとして、ガムは日常的に大量消費されていました 。しかし、そこから市場は緩やかな、しかし確実なダウントレンドへと突入していきます。2013年には生産量が3万220トン、販売額が1,220億円にまで落ち込み、ピーク時から大きく数字を落とすこととなりました

一方のグミ市場は、1995年以降の販売個数トレンドにおいても、一貫して右肩上がりの成長を長く続けてきました 。そして、この両者の軌道が交差し、歴史的な逆転が起きたのが、奇しくも新型コロナウイルス感染症の世界的パンデミックの最中である「2021年」でした

以下の表は、近年の国内におけるグミとガムの市場規模(小売金額ベース)の推移を詳細に比較したものです

グミ市場規模(小売金額)チューイングガム市場規模(小売金額)市場シェアの力関係と傾向
2017年555億円823億円ガムが約270億円の大差をつけてリードし、圧倒的優位
2018年606億円767億円ガムが縮小する一方、グミが600億円台に突入
2019年619億円741億円ガムのダウントレンドが継続、グミは堅調に拡大
2020年569億円612億円コロナ禍初年、両市場縮小もその差は急速に肉薄
2021年635億円593億円歴史的転換点:グミがガムの市場規模を逆転
2022年781億円548億円グミが前年比23%増と急拡大、約230億円の差をつける
2024年1,137億円785億円グミが過去最高の1,000億円超え。ガムも回復基調へ

2017年の段階では、ガム市場がグミ市場に対して約270億円もの大差をつけており、両者の位置づけは明確でした 。しかし、ガム市場はその後も縮小の一途をたどり、2021年にはついに593億円まで落ち込みました。それに対してグミは635億円へと拡大し、わずか5年間で完全に立場が逆転したことがデータから読み取れます

さらに特筆すべきは、逆転後のグミ市場の爆発的な成長力です。インテージの標準小売店パネルデータ(SRI+)による推計では、2024年にグミ市場は過去最高となる1,137億円の規模に到達し、前人未到の1,000億円の大台を軽々と突破しました 。全日本菓子協会の統計によると、2024年にはガム市場もエチケット・リフレッシュ需要の回帰によって生産・販売ともに前年を超え、小売金額で785億円まで回復していますが、市場の主役がグミに移ったという構造的な変化はすでに定着しています

2.2 ガムの輸出入推移から見る国際的な動向

国内生産だけでなく、貿易統計からも日本のガム市場の置かれている状況が見えてきます。日本国内で流通するガムの輸出入に関する直近のデータによると、ガムの輸入量は減少傾向、輸出量も国によってばらつきを見せています。

例えば、2021年の日本のガム輸入量は572トン(約18.8億円)でしたが、2023年には578トンと数量自体はほぼ横ばいながら、金額ベースでは為替の影響等もあり9.9億円へと縮小しています 。2024年に至っては548トン(約9.2億円)となり、国内での消費低迷が輸入量にも反映されている様子がうかがえます 。輸入元としては韓国(444トン、約7.7億円)が圧倒的なシェアを占め、次いで中国、スペインと続きます

一方で、輸出に関してはアラブ首長国連邦(492トン、約3.1億円)、サウジアラビア(327トン、約2.9億円)、中国(149トン、約2.6億円)などが主要な相手国となっています 。中東諸国への輸出が堅調であることは、日本の菓子メーカーが国内市場の縮小を補うために、海外市場における特定の嗜好や需要(例えばハラール認証の取得や特有のフレーバー展開など)を的確に捉えようとしている戦略の表れと言えるでしょう。

2.3 世界市場におけるグミとガムの巨大なポテンシャル

国内では明暗が分かれたグミとガムですが、グローバルな視点で見ると、それぞれの市場は独自の要因で成長を続けており、非常に巨大なポテンシャルを秘めています。

世界のチューインガム市場規模は、2024年時点で287億米ドル(日本円にして約4兆3,000億円規模)と高く評価されており、2033年までに年平均成長率(CAGR)3.04%という安定したペースで成長し、387億米ドルに達すると予測されています 。特に北米地域が市場を強力に牽引しており、2025年には世界の市場シェアの37.6%以上を占めると見込まれています 。北米市場では、消費者の多忙なライフスタイルに伴うエネルギー補給需要や、様々なパッケージサイズのガムの普及、そして環境に配慮したプラスチックフリー製品への転換が成長の原動力となっています

対照的に、世界のグミ市場規模は、2024年時点で230億米ドルと評価されており、絶対的な市場規模ではガムに次ぐポジションにあります。しかし、その成長率はガムをはるかに凌駕しています。2025年から2034年までの期間において、CAGRは10.4%を超える急速な拡大が予測されており、2034年には540億米ドルという巨大市場へと成長することが見込まれています

この驚異的な成長を根底で支えているのが、「グミサプリメント(栄養補助食品としてのグミ)」の爆発的な需要です 。ある市場分析によれば、グミサプリメント市場単体でも、2024年に65.8億米ドルと推定され、2035年には161億米ドル(CAGR 8.47%)にまで拡大すると予測されています 。ビタフュージョンやネイチャーズウェイといった主要プレイヤーが市場を牽引し、予防的健康への関心の高まりから、ビタミンだけでなくプロバイオティクスを配合した製品などが特に高い成長を見せています 。日本の市場が主に「嗜好品としての楽しさ」を中心に拡大しているのに対し、グローバル市場では「ヘルスケアや機能性を、美味しく手軽に摂取する手段」としてグミが選ばれているという構造的な違いは、非常に重要な洞察です。

3. なぜグミはガムの消費量を上回ったのか:歴史的逆転の背景

グミがガムの消費量を上回った背景には、単純な味覚の好みの変化という一次元的な理由だけでなく、生活者のライフスタイル、テクノロジーの進化、そしてパンデミックという社会環境の激変が複雑に絡み合っています。ここでは、市場を劇的に変化させた主要な要因を深掘りします。

3.1 ガムにとって最大の競合は「スマートフォン」だった

チューイングガム市場が縮小へと向かった最大の要因は、他の菓子カテゴリーとの競争に敗れたことではなく、「スマートフォン」という全く異質のデジタルデバイスの急速な普及にあります。

かつて、ガムを噛む機会といえば、「作業の集中力を高めたい時」や、電車を待つ間などの「手持ち無沙汰な時間を解消したい時」が中心でした 。しかし、2010年代以降、スマートフォンが国民的なインフラとして普及したことで、人々はいつでもどこでも、わずかな空き時間があればポケットからスマホを取り出し、SNSをチェックし、ゲームをし、インターネットを閲覧するようになりました 。この行動様式の不可逆的な変化により、「暇つぶし」や「気分転換」のツールとしてのガムの出番が著しく減少したのです。

ガム市場で大きなシェアを持つロッテが独自のアンケート調査を行った結果、働く女性の消費行動に非常に興味深いギャップが見出されました 。働く女性に「よく食べるお菓子」を尋ねたところ、70%を超える人が「チョコレート」と回答し、「ガム」と回答した人は約40%にとどまりました。しかし、質問を「会社やバッグにいつもおいてある(常備している)お菓子は何か?」と変えると、1位がガム、2位がキャンデー、3位がタブレット菓子、4位がチョコレートという全く逆の順位になったのです 。 このデータが示唆しているのは、「ガムは依然としてエチケットとしての必需品としてカバンの中には存在するものの、実際には消費(咀嚼)に結びついていない」という残酷な現実です。現代の多くの人々は、ポケットからガムを取り出す前に、スマートフォンを取り出して視覚的・精神的な刺激を得ているため、ガムの消費スピードが劇的に落ちていると考えられます。

3.2 コロナ禍による「喫食シーン」の喪失と価値のギャップ

スマートフォンによる消費量の低下に致命的な追い打ちをかけたのが、2020年から始まった新型コロナウイルス感染症の世界的流行です。感染予防のための長期にわたるマスク着用の常態化は、ガムの存在意義を根底から揺るがしました。

外出自粛やテレワークの普及により、他者との対面コミュニケーションの機会が激減しました。これにより、ガムの最大の強みであった「口臭ケア」や「人と会う前のエチケット」としての機能性が発揮されるシーン、すなわち「喫食シーン」が完全に失われてしまったのです 。さらに、マスクをしたまま長時間ガムを噛む行為は、自分の息がこもって不快感を覚えたり、息苦しさを感じたりするため、消費者は急速にガムから遠ざかっていきました。

ガム市場から撤退を決断した菓子メーカーの明治は、その理由として「社会環境の変化により、ガムの価値と消費者のニーズとのギャップが大きくなった」と説明しています 。この言葉は、ガムというフォーマットそのものが、非対面を前提とするコロナ禍の社会生活のニーズと構造的に合致しなくなっていたことを端的に表しています。

3.3 「グミニケーション」がもたらしたSNS映えと共有の文化

ガムが機能的な価値を見失い苦戦する一方で、グミは全く新しい価値提案によって市場を急拡大させていきました。その原動力となったのが、日本グミ協会などが強力に推進してきた「グミニケーション」という概念です

「グミニケーション」とは、単にグミを食べるだけでなく、グミを通じて生まれる自由で楽しいコミュニケーションを指します 。グミは製造技術の向上により、極めて自由な形状、鮮やかな色彩、そして透明感を持たせることが可能です。この特性が、InstagramやTikTokといった写真・動画中心のSNSにおける「映え(見栄えの良さ)」と完璧な親和性を示しました。

日本グミ協会は、ファンを巻き込んだ「グミパ(グミパーティー)」や、掛川市二の丸美術館で開催された世界初の『グミの世界展~旅するグミ~』など、オフラインとオンラインを融合させた革新的なイベントを次々と仕掛け、コアなグミコミュニティを形成してきました 。また、「9月3日はグミの日」として、参加メーカー各社のグミを「ハードかソフトか」「王道か新発見か」という4象限のマップに分類した「2025グミマップ」を全国の小売店で展開するなど、消費者が新しいグミを探求する「楽しさ」をシステム化して提供しています

こうした文化的側面のアプローチにより、消費者は店頭に並ぶ多種多様なグミの中から新しい食感や面白い形の商品を見つけ、それを友人や同僚とシェアしたり、SNSに投稿したりするようになりました。この一連の体験がコミュニケーションの潤滑油として機能し、興味本位で購入した「トライアルユーザー」を、特定の商品や食感の「リピーター」へと定着させていく好循環が生まれ、市場全体を力強く牽引したのです

3.4 チョコレートなど他カテゴリーからの大規模な需要流入

グミ市場の拡大は、単にガム市場のパイ(シェア)を奪った結果ではありません。ここには非常に重要な消費者心理のメカニズムが働いています。 セブン-イレブン・ジャパンなどの流通関係者の分析や消費者調査によれば、ガムを食べる頻度が減った人のうち、明確にグミを食べる頻度を増やしている人はわずか25%にとどまると報告されています 。つまり、消費者の頭の中で「ガムの代わりにグミを噛む」という直接的な代替は、それほど多く起きていないのです。両者には、グミが持つ「話題性や嗜好性」と、ガムが持つ「機能性(清涼感やエチケット)」という明確に異なる強みがあり、消費するモチベーションの背景が異なります

では、グミはどこから顧客を奪っているのでしょうか。実際のところ、グミはキャンディーやタブレット端末菓子のほか、圧倒的に「チョコレート」市場からの大規模な顧客流入を引き起こしています 。 分析データによると、特に2022年においては、小袋タイプのチョコレート菓子(通称:ポケチョコ)の市場から、約16億円分もの巨大な需要がグミへと流出したことが確認されています 。チョコレートは美味しい一方で、夏場や暖かいオフィスでは溶けやすく、手でつまむと指が汚れるという物理的な弱点を持っています。これに対してグミは、季節や温度環境に左右されにくく、手が汚れにくいという圧倒的な利便性を誇ります。スマートフォンの画面をスクロールしたり、パソコンのキーボードを叩いたりしながら「片手でつまんで、手を汚さずに食べられる」というグミの特性が、現代のマルチタスクな消費環境に完璧に合致し、チョコレートが持っていた「小腹満たし」の需要をごっそりと吸収したと結論付けられます。

3.5 大人世代を虜にした「事後処理の不要さ」と咀嚼効果

かつてグミは、子ども向けの甘いお菓子という固定観念がありました。しかし、現在の市場拡大の屋台骨を支えているのは、間違いなく購買力のある「大人世代」です 。子どもの頃にグミを食べる習慣があまりなく、ガムや飴で育ってきたはずの中高年のビジネスパーソンや大学教授(流通科学大学の白鳥和生教授の事例など)でさえ、いつの間にか仕事のお供としてグミを頻繁に食べるリピーターになっているケースが急増しています

この背景には、ガムとグミの「事後処理」の違いが大きく影響しています。ガムは味がなくなった後、紙に包んでゴミ箱に捨てるという物理的な処理が必要です。オンライン会議中や移動中など、すぐにゴミを捨てられない環境下では、このプロセスが心理的な摩擦(フリクション)となります。一方、グミはそのまま飲み込むことができ、ゴミが出ません。周囲に気づかれることなく素早く糖分を補給し、小腹を満たせるという機能的かつ行動的なメリットが、タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する現代の大人のライフスタイルに深く刺さったのです。

また、近年のグミは非常に高い弾力を持つ「高反発・ハード系」の商品が増加しており、しっかりと咀嚼することによるストレス解消効果や覚醒効果を求めるビジネスパーソンのニーズを、ガムに代わって満たしていることも見逃せません。

4. 象徴的な歴史的転換点:明治「キシリッシュ」のグミへの転生

この日本の菓子市場における巨大な地殻変動を、これ以上ないほど劇的かつ象徴的な形で世に知らしめた出来事があります。それが、大手菓子メーカーである株式会社明治によるチューイングガム事業からの完全撤退と、長年愛されたガムブランドの「グミとしての転生」です。

明治が1997年に発売した「キシリッシュ」は、日本で初めて虫歯予防効果のあるキシリトールを配合した画期的なガムとして一大ブームを巻き起こし、2007年には売上の絶頂期を迎えました 。長年にわたりガム市場を牽引してきた大看板でしたが、前述したような市場全体の構造的な退潮には抗いきれず、明治は2023年3月末をもってキシリッシュを含むすべてのガム商品の販売を終了し、ガム市場そのものから完全に撤退するという苦渋の、しかし合理的な経営判断を下しました

しかし、明治の戦略は単なる撤退では終わりませんでした。ガム事業からの撤退を発表した翌月である2023年4月4日、同社は長年培ってきた「キシリッシュ」という強力なブランド資産をそのまま引き継ぎ、「キシリッシュグミ クリスタルミント」を全国で新発売したのです

この商品は、かつてのガムが持っていた「爽やかな清涼感とリフレッシュ感」を維持しつつ、1粒で長く噛めるハードな噛みごたえのグミキャンデーとして完全に再構築されたものでした 。明治は独自の指標である「かみごたえチャート」を用いて、消費者が自分に合った咀嚼力を選べるように工夫を凝らしました 。 この戦略的転換は、「清涼感」「リフレッシュ」「エチケット」というガムが担ってきた中核的な機能的価値を、現代の消費者が最も好む「グミ」というフォーマット(容器)へと見事に移植した事例です。「口寂しい時のビジネスパーソンのお供」という主役の座が、名実ともにガムからグミへと完全に交代した歴史的な象徴的事件として、業界の歴史に深く刻まれることとなりました

5. 最新のグミトレンドと覇権を握る人気商品たち

年間1,100億円を超える巨大市場へと成長を遂げた国内のグミ市場では、メーカー各社による熾烈な製品開発競争が日々繰り広げられており、そのトレンドは絶えず細分化と進化を続けています。現在の市場を牽引する代表的なカテゴリーと人気商品を徹底的に分析します。

5.1 王道フルーツとハード系:スーパーの棚を制する定番たち

日常的に消費されるグミ市場は、日本グミ協会が提唱する「グミマップ」の分類にもあるように、大きく「果汁本来の味を楽しむ王道系」と「咀嚼による刺激を求めるハード系」の二極化が進んでいます

果汁感と王道の追求: 明治の「果汁グミ ぶどう」や、春日井製菓の「つぶグミ」は、果実本来の濃厚な味わいと、老若男女問わず手軽に食べられる形状が評価され、長きにわたって幅広い層から絶対的な支持を集める定番中の定番です 。これらは市場のベースとなる安定した消費を支えています。

高弾力・ハード食感によるストレス解消: 近年、特に存在感を高めているのがカバヤ食品の「タフグミ」ブランドです。高弾力で強靭な噛みごたえのあるキューブ型の食感と、大容量による高い満足感が若年層やビジネスパーソンに深く刺さり、グミ市場の売上げにおいて2年連続で首位を獲得するほどの圧倒的な人気を誇示しています 。また、ノーベル製菓の「男梅グミ」のように、甘さではなく塩味や強烈な酸味といった刺激を追求する商品も、コアな固定ファンを離さず一定のシェアを確保しています 。

5.2 プレミアム化とギフト需要の開拓:「グミッツェル」の熱狂

グミの概念を根底から覆し、「高級菓子・プレミアムギフト」という全く新しい次元へと引き上げたのが、カンロ株式会社が運営する直営店舗「ヒトツブカンロ」の看板商品である「グミッツェル」です

グミッツェルは、外側はパリッとしたクリスピーな歯ごたえでありながら、内側はしっとりとした柔らかいグミという、独自の「次世代食感」を実現したプレッツェル型のグミです 。この商品は単なる日常の糖分補給ではなく、洗練されたパッケージングと希少性によって、「東京土産」や「大切な人への贈り物」としての特別なギフト需要を開拓することに成功しました 。 Yahoo!ショッピングなどの主要ECサイトでも検索ランキングの上位を独占し続けており 、オンラインショップ「Kanro POCKeT」で販売される数量限定のギフトBOXは、発売と同時に即完売するほどの熱狂的な人気を集めています。

さらに、商品展開のスピードも驚異的です。例えば、2026年6月には、夏の帰省土産や友人とのシェア需要を狙い、テトラ包装に小分けされた「グミッツェルプチの夏休み(ソーダ、グレープに加えマンゴー味が追加)」が発売されます 。同時に、雲の形をした“もふふわ”食感のマシュマロ系商品「夏空のmofuwaプチ」も展開され、これらを詰め合わせた10,800円(税込)という高単価な「ヒトツブカンロ ときめきのおくりもの ナツ」が予約販売されるなど、季節感やSNSの話題性を完璧に連動させた巧みなマーケティング戦略が展開されています 。また、アフターユース(食べた後に小物入れ等に使える)を意識した丸缶入りの「リングのグミッツェル缶(5種アソート650円)」など、消費者の所有欲を満たすパッケージ開発も抜かりがありません

5.3 健康志向と機能性への拡張:サプリメントとしてのグミ

日本国内ではエンターテインメント性や嗜好品としての側面が強いグミですが、すでに解説した通り、グローバル市場で爆発的な成長の原動力となっている「機能性グミ(グミサプリメント)」の波は、間違いなく日本市場にも波及しつつあります。

米国食品医薬品局(FDA)や疾病予防管理センター(CDC)のデータが示す通り、欧米では成人の大半が栄養補助食品を摂取しており、その過半数が錠剤のサプリメントよりも美味しく摂取できるグミフォーマットを好んで選択しています 。また、小児や青少年のビタミン摂取においても、グミ型が総摂取量の40%前後を占めるなど、全世代における健康インフラとして定着しています

国内の食品市場全体を見渡しても、インテージの調査によれば、ノンアルコール類(ハイボールテイスト等)の市場が健康志向の高まる60代以上のシニア層に牽引されて拡大しているというデータがあります 。この「健康志向の高まり」と「手軽さの追求」は、グミ市場にとっても強力な追い風です。現在、日本国内でも鉄分、ビタミンC、コラーゲン、あるいは睡眠の質をサポートする成分を手軽に摂取できる機能性栄養食品としてのグミが続々と発売されており、特に多忙な女性層や、錠剤を飲み込むことに抵抗があるシニア層・児童層に向けて、毎日の習慣化しやすい「美味しくて実用的なサプリメント」としての確固たる地位を築きつつあります。

6. チューイングガム市場の現在地と復活へのシナリオ

グミに圧倒的な差をつけられ、主役の座を明け渡したチューイングガム市場ですが、その役割を終えて消滅に向かっているわけでは決してありません。長きにわたるダウントレンドを経て底を打ったガム市場は、現在、自らが持つ本来の強みを見つめ直し、新たな価値提案による力強い再起を図っています。

6.1 対面コミュニケーションの復活による「エチケット需要」の回帰

全日本菓子協会の統計によると、2024年のガム・キャンデー市場において、ガムは生産数量(1万9,300トン、前年比1.6%増)、生産金額(530億円、同3.9%増)、小売金額(785億円)のすべての指標において前年を上回り、明確な回復基調を示しました

この回復の要因は非常にシンプルかつ明白です。新型コロナウイルスの5類移行に伴う、「対面コミュニケーション機会の本格的な復活」です。 オフィスへの出社回帰や、夜の飲み会、対面での営業活動が日常の風景として戻ってきたことで、消費者の間で「口臭ケア」「身だしなみとしてのエチケット」「長時間のミーティングを乗り切るための強力なリフレッシュ」という、ガム本来のコアニーズが再び強く意識されるようになりました

事実、モンデリーズ・ジャパンの主力ガム「クロレッツ」は、出社を再開したビジネスマンや、在宅勤務とオフィス勤務を組み合わせるハイブリッドワーカーのエチケットニーズを的確に捉え、2024年度の実績においてガム市場全体の成長水準を上回る大幅な伸長を見せています 。ガムは「暇つぶし」の役割をスマートフォンに、そして「手軽な口寂しさの解消」をグミに譲り渡しました。しかし、裏を返せば、ガムが持つ「長時間持続する強力な清涼感」や「唾液の分泌を促すことによる圧倒的な口臭予防効果」においては、依然として他のいかなる菓子カテゴリーも追随を許さない絶対的な優位性を持っている証明でもあります。

6.2 機能性の高度化・植物由来・持続可能性へのグローバルシフト

ガム市場が今後さらなる持続的な成長を遂げるためには、海外市場の先進的なトレンドを取り入れ、ニッチかつ高付加価値な領域へとシフトしていくことが不可欠です。世界に目を向けると、チューインガムのメーカー各社は統合や買収を進めながら、次世代型のガム開発に多額の投資を行っています

  1. 究極の機能性の付加: 北米市場などで急成長しているのが、スポーツ選手やハードワーカー向けの「カフェイン入りエネルギー補給ガム」や、強力な殺菌成分を含んだ「デンタルケア特化型ガム」、さらにはニコチン置換療法としての「禁煙補助ガム」といった、人間のパフォーマンス向上や健康課題の解決に直接的に寄与する機能性チューインガムです 。これらはもはや「お菓子」の枠を超え、ドラッグストアで目的買いされるヘルスケア商品としてのポジションを確立しています。
  2. 持続可能性(サステナビリティ)とプラスチックフリーへの転換: 従来のチューイングガムのベース(ガムベース)には合成樹脂、すなわち一種のプラスチックが含まれていることが多く、ポイ捨てによる環境汚染やマイクロプラスチック問題の要因として欧州などで厳しく指摘されてきました。これに対処すべく、2024年には英国のブランド「Milliways」が米国市場へ進出し、プラスチックを一切使用しない植物由来(ペパーミントやスペアミント等)のエコフレンドリーなガムを大手スーパーマーケットチェーンへ大規模に展開するなど、環境配慮型ソリューションへの移行が急速に進んでいます 。
  3. エンターテインメント性とノスタルジーの融合: 若年層や子どもに向けては、一見するとほうれん草のペーストのような外見でありながら、食べると甘いバブルガムの味がする「ポパイほうれん草ガム(バブルガム・キッズ社)」のように、意外性や遊び心を取り入れた製品が登場し、TikTokなどのSNSでのバイラル(拡散)を意図的に狙ったマーケティングが行われています 。

日本のガム市場も、今後はこうした「超高機能化」や「環境配慮型素材への転換」を積極的に推し進めることが求められます。単なる万人のための嗜好品としての側面を薄め、より目的が明確化されたニッチで確実な需要を満たす商材へと自らを再定義していくことが、市場における生存と再成長の最大の鍵となるでしょう。

7. 結論:菓子市場における新たな共存関係と未来への展望

本レポートのデータと動向分析を通じて明確になったのは、グミがチューイングガムの市場規模を逆転したという歴史的な事象は、決して一時的なブームや、消費者の気まぐれな味覚の変化によるものではないということです。それは、スマートフォンの普及による「手の塞がりと時間の消費方法」の不可逆的な変化、パンデミックが強制した非対面社会という生活様式の変容、そして「グミニケーション」に象徴される、現代社会が求める自己表現と他者とのつながりの在り方が、複雑かつ密接に絡み合った結果としてもたらされた、必然的なパラダイムシフトでした。

年間1,137億円を突破し過去最高を更新し続ける日本のグミ市場は 、今後も「グミッツェル」のような驚きをもたらす食感の革新によるプレミアム化、チョコレートなど他カテゴリーからの継続的な代替需要の吸収、そしてグローバルトレンドに歩調を合わせたヘルスケア領域(サプリメント化)への拡張を通じて、さらなる高みへと向かう力強いモメンタムを維持していくことは間違いありません

一方で、約785億円規模で底堅く推移し回復の兆しを明確に見せているガム市場は 、もはやグミと同じ土俵で「口寂しさ」というパイを奪い合う疲弊したフェーズからは脱却しつつあります。ガムは「対面ビジネスにおける最強のエチケットギア」として、あるいは「集中力を極限まで高めるための機能的ツール」としての確固たる地位を再構築することで、グミとは全く異なる、競合しない独自の生態系を確立していく新しい段階に突入しています

「キシリッシュ」が長年のガムとしての歴史に幕を下ろし、グミへと姿を変えて新たな生命を吹き込まれたように 、商品を包み込むフォーマット(形式)は時代やテクノロジーの進化とともに常に変化し続けます。しかし、人間が根源的に求める「リフレッシュしたい」「誰かと楽しく美味しい体験を共有したい」「心身の健康を維持したい」という欲求そのものが消滅することはありません。

これからの数年間にわたる菓子市場においては、グミが持つ圧倒的な「情緒的価値・コミュニケーション価値」と、チューイングガムがさらに研ぎ澄ませていく「機能的・実用的価値」が、互いに領域を侵すことなく補完し合いながら、新しい共存関係を築き上げていくことが強く推測されます。消費者にとっての選択肢の質的および量的な多様化は、結果として菓子業界全体のさらなるイノベーションを喚起し、市場全体の持続的な成長を促進していく強固な土台となることでしょう。

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